乳癌に対する治療方針について

乳房温存手術、乳房再建術

早期乳癌に対しては、女性にとってかけがえのない乳房を温存する”縮小手術”と術後の”放射線照射”、”補助療法(化学療法・ホルモン療法)”を組み合わせることで、従来行われてきた乳房切断術に匹敵する治療成績が可能になりました。
1999年に発表された”乳房温存療法ガイドライン”には「乳房温存療法とは、乳房温存手術と腋窩郭清の後に残存乳房に対し乳房照射を加える」と定義されています。

1.乳房温存手術の特徴は?

長所

  1. 乳房が残ることで、美容的に優れている。
  2. 手術後の腕のむくみ(浮腫)が少なくなる。
  3. 乳房が残ることによる精神的な安心感が得られる。

短所

  1. 術後に放射線照射を行うため、治療期間(通院)が約6週間長くなります。
  2. 残存乳房は手術前より量が少なくなるために,変形や左右の対称性が保てないことがあります。

2.乳房温存手術の適応は?

以下の条件を満たす必要があります。

  • 原則として、腫瘤の大きさが3.0cm以下であるもの。
  • 各種の画像診断で広範な乳管内進展を示す所見(マンモグラフィでの広範な悪性石灰化や乳房MRI検査での浸潤)のないもの。
  • 乳房内多発病巣を認めないもの。
  • 術後の放射線照射が可能なもの。放射線治療を加えることにより、乳房内再発の頻度は20~30%より3~10%と約1/3に減少します。
  • 患者が乳房温存療法を理解し、希望すること。

3.乳房温存手術の詳細

  • 乳腺部分切除術:乳癌の腫瘤から2cm以上の安全域をとって切除したり、もしくは腫瘤を中心とした約90度の扇形切除をします。さらに、センチネルリンパ節転移が認められた場合、わきの下のリンパ節を摘出します(腋窩リンパ節郭清)。
    これは、腋窩リンパ節への癌の転移の頻度が最も重要な予後因子であるため、術後の治療方針に大きく関わります。
  • 術後放射線照射:乳房温存手術の約2週間以降で、創部が完治したことが確認できたら、放射線治療を開始することができます。京都大学放射線治療科にご紹介しますので、以後は放射線照射終了までは京都大学附属病院での通院治療となります。放射線治療は、癌のあった側の乳房に対して、25回(50グレイ)あるいは30回(60グレイ)照射されます。
  • 術後補助化学内分泌療法:ホルモン感受性に基づいて、抗癌剤とホルモン剤を組み合わせて、内服による化学内分泌療法を予定します。
    乳癌組織の悪性度の高い、いわゆるハイリスク症例に対しては、原則として点滴抗癌剤による化学療法が行います。

4.乳房温存手術に起こりうる合併症

  • 創部出血、創下リンパ液貯留:術後、外来通院にて保存的に処置可能です。
  • 肩関節運動制限、患側上肢浮腫:患側上肢のリハビリテーションにより、運動制限や浮腫が改善されることが殆どです。
  • 温存された乳房:手術前より乳房の量が少なくなるため、変形や、左右の対称性が保てないことがあります。
  • ホルモン剤による副作用:ホルモン剤は、女性ホルモンが乳腺に働くのを阻止する作用により再発抑止が期待できます。しかしながら、その特性上、子宮にも影響がでる場合もあります。異常分泌等が続く場合は婦人科にて精査を受けることが可能です。

5.乳房再建術

乳癌の手術のあと、乳房の変形等による喪失感や日常生活の不便さ、不自由さを感じることがあります。乳がんの切除により変形あるいは失われた乳房をできる限り作り直す手術を乳房再建術といいます。乳房再建術には手術する時期や手術法が数種類あり、また乳房再建のできあがりや安全性には、乳癌の治療方法や患者さん個々の状態が大きく影響しますので、再建を検討したい場合には、乳癌の手術前にその希望を医師に伝えていただくことが大切です。
乳房再建の方法は、大まかに次のように分けられます。
・インプラントを使う方法:後日、形成外科で行われます。
・自家組織(自身のおなかやせなかの組織等)を使う方法
当科では、一部の外側部位の症例に対して、根治性と整容性を兼ね備えた lateral tissue flap (LTF) による欠損部の充填を行うことで、整容性を得ております。

腫瘍部位と皮膚切開線
腫瘍部位と皮膚切開線
乳腺扇型切除後とLTF
乳腺扇型切除後とLTF
乳腺欠損部位への充填
乳腺欠損部位への充填
手術終了時
手術終了時
術後放射線照射中の乳房
術後放射線照射中の乳房
術後放射線照射中の乳房
術後放射線照射中の乳房